日吉チーム

「低分子化合物による転写制御で乳がんの転移を抑制する」

 現在女性の罹患率一位である乳癌は、その死亡例の約9割が転移によるものとされています。一般的に、癌は初期と後期で性質が異なり、初期では良性な癌が後期には転移能をもつ悪性の癌へと変化します。乳癌治療に主として使用されている抗エストロゲン剤は、エストロゲン(E2)のエストロゲン受容体(ERa)への結合を阻害することで癌の増殖は抑えますが、転移・浸潤を抑えることはできません。私たちのチームでは、転写制御因子としてのERaの機能に着目し、乳癌の増殖と転移の両方を抑制できる抗癌剤の開発を目的として研究を行っています。

1.ユビキチンリガーゼCHIPの発現制御による乳癌治療に有用な新規化合物の同定
 これまでの研究により私たちは、CHIPというユビキチンリガーゼが癌の転移・浸潤両方を強力に抑制することを解明しました。ユビキチン化されたタンパク質は、細胞中のタンパク質分解の場であるプロテアソームへと運ばれ、そこで分解されます。私たちは、CHIPの標的タンパクとして癌遺伝子SRC-3を同定しました。SRC-3は、乳癌の転移を促進するTGF-bシグナルの仲介因子として働くSmad2の発現を調節しています。CHIPはSRC-3を分解することにより、Smad2の発現量を低下させてTGF-bシグナルを抑制し、その結果として乳癌の転移を抑制します。
 CHIPの転写はエストロゲンという女性ホルモンにより活性化されることがわかっていますが、エストロゲンは癌の増殖を促進する作用を持つことが知られています。そこで私たちは、エストロゲンレセプターに結合してCHIPの転写活性を促進する一方、エストロゲン様の癌細胞増殖を持たない理想的な化合物をスクリーニングによりいくつか得ることに成功しました。また、これら候補化合物は、乳癌細胞の増殖・遊走・浸潤を抑制することがわかりました。現在、これらの候補化合物が生体内で作用し、CHIPの発現を増加させて癌の増殖や転移を抑制し得るのか、マウスを用いて解析を現在進めているところです。


2.乳癌の増殖と転移を両方抑制する新規ERリガンドの開発
 癌細胞の「増殖→腫瘍形成→転移」といった悪性化のプロセスにおいて、TGF-bファミリーは、悪性化が進行した癌において浸潤や転移などをさらに悪化させることが知られています。一方で、ERaはSmadを分解することでTGF-bシグナルを抑制し、乳癌の転移を抑制しています。
 最近、私たちのグループは、エストロゲンが癌の転移を抑制する働きを持つことを明らかにしました。このことは、抗エストロゲン剤の臨床的な使用は乳癌の転移を促進してしまう可能性を示唆しています。私たちは、転移のメカニズムを調べることで、増殖も転移も阻害できるような創薬への応用を目指して研究を行っています。


 

増殖

転移

E2 / ERa

TGF-bシグナル

 

 

 

 

TGF-btransforming growth factor-b(増殖抑制因子)





 さらに詳しい研究内容については、こちらからお問い合わせください。

←メーラーが立ち上がります。